GRAVELKING X1 - Panaracerのモダナイズされたオールラウンドグラベルタイヤ
前置き
Panaracer様から販売前テスト用に提供されたタイヤをもとに、グラベル・シングルトラック、そして舗装路での使い心地をレビューしていく。
ロゴがないこと以外は市販品と同様であることは確認済み、製品提供とフィードバックはあったものの、本記事についてはPanaracer様からの依頼外であることは明らかにしておく。何の資料も配布されていないので、事前のカタログ情報も無い中インプレッションを行った。
スペック・取り付け
グラベルキングシリーズすべてのタイヤがリニューアルされ、X1モデルが追加されたほかに軽量グレードの「R」が追加、ビードの上がりやすさ改善、ケーシングの刷新が行われた。
今回提供してもらい、レポートしたテストタイヤは、本記事の主役であるグラベルキングX1 40cだけでなく、グラベルキングSK 40cもテストした。本記事では特に言及がなければリニューアル後の2モデル間で比較していき、リニューアル前のモデルに言及する際は「旧SK」「旧SS」と言った表記を用いる。
開封・計量
それぞれ1セット2本づつのテストで、X1 40cの実測重量は483gと486g。
対してSK 40cの実測重量は481gと485gだった。カタログ重量は同じで、パターンのみ異なるタイヤだ。
X1のパターンを見た際に抱いた最大の期待は、「舗装路を走ってオフロードに行くライドの最適パターンっぽい!」というもの。果たしてどうだったかは後半のインプレをお楽しみに。
40cという幅とSKの限界
これまで、グラベルキングシリーズ(TLR)のタイヤ幅のボリュームゾーンは35c-38c-43c-45cという刻み。これが 35c-40c-45c-50c(SKのみ) にアップデートされた。
GRAVELKINGが人気であった要因の一つである、サイズ展開の豊富さはそのままに見直し行っています。
— パナレーサー株式会社 (@PanaracerJ) March 1, 2024
より使いやすく選びやすいサイズ展開となっています。
また価格は以下の通りです。(税込希望価格)
STD(CL) 26~28C 6,270円
STD(TLR) 30C~ 6,600円
R(CL) 28C 7,150円
R(TLR) 30C~… pic.twitter.com/6CgLuZSo8i
スリックモデルや30cモデルはコンセプトからするとメインストリームから外れるとして、現代的なグラベルロードであれば、いずれのタイヤ幅も利用できるかとは思う。ただ、少し前までのレース系グラベルロードではMAX 42cといったスペックが多く、ニューモデルの対応タイヤ幅は今も絶賛拡張中だ。
今持っているフレームで、43cは公式には入らないが、38cではアグレッシブなライドに出づらい…新しく発売された40cはそんな要望に応えるサイズだ。ただ、38cがキャパシティのエンデュランスロードを持っている人には最大幅のタイヤサイズが無くなってしまう、酷な変更だったかもしれない。
かくいう自分のREVOLT ADVANCEDもフリップチップがショートの状態では公称のリアタイヤクリアランスは42c。
もちろん、実際は43cでも走行できるし、グラベルを思いっきり楽しみたいニセコグラベルでは43cの旧グラベルキングSKを履いて出場していた。
細いタイヤの方は転がり抵抗が良いと思われがちだが、オフロード・オンロード関わらずそこまでの差はない。むしろ太いタイヤのほうが跳ねないため、勾配に関わらず転がりが良い…というのが定説だ。もちろん、オフロードでこの傾向は顕著になる。
一方で、太いタイヤは登りで重量のハンデを負う。ここはコースの獲得標高とにらめっこして自分のタイヤ幅を決めることになるが、グラベルライドの本番はオフロードの下りにあると信じて疑わない自分にとって、その楽しみをスポイルするという選択肢はない。
43cの旧グラベルキングSKは下りでは文句の無い安定感を提供し、ニセコグラベルでは存分のそのロケーションとコースを楽しむことができた。
しかし、それはイベントのような「走り始めて早々にグラベルがスタート」という環境だからこそのメリット。
普段のライドではグラベルフィールドまでは時間がかかるし、舗装路の登りだってある。それでいて、関東のグラベルはニセコで走ったそれのように緩やかな気持ちい下りではない。
アプローチの舗装路や登坂は軽々とこなしつつ、グリップはより必要。SKではノブが変形して登りや舗装路でロスするし、かと言ってSSでは楽しむべきオフロードを楽しみ切れない…
そんな事情もあって、SSでもSKでもないオールラウンドなパターンは(個人的に)待望の存在だった。
「グラベルキングは緩い」を払拭。ビード上げの苦労は普通レベルへ
かつて、グラベルキングはビードの緩いタイヤ代表で、リムとの相性次第ではビード外れを起こすことも有名だった。(特に独自チューブレス規格だったNotubesリムとの相性が良くなかった)
グラベルロードブーム前から存在しており、ブームに乗ってタイヤパターンと太さのバリエーションが増えても、長らくマイナーチェンジにとどまり大きな変化はなかったが、今回ついにリニューアルして、ビード径が改善されたようだ。
今回は短期間でX1 40cを前後で合計2本のほか、同じくテスト提供されたSK 40cも併せて合計4本装着した。ホイールはENVE G25。
作業環境として準備しているのは、フロアポンプとTOPEAKのTubibooster X。
装着もテストのうちなので、作業用手袋だけをした状態で、フロアポンプでの取り付けを試し、その後ビードが上がらなければコンプレッサーを用いるという手順をとる。
タイヤ単体の力を見たいので、シーラントはビード上げ後にバルブコアから注入する段取りとした。石鹸水やビードワックスも使用しない。
シーラントはマックオフのHASSLE TUBELESS SEALANTを使う。本来であればパナレーサー製品であるシールスマートを使うべきかもしれないが、バルブコアから注入できるタイプではないので仕方ないね!
結果は以下の通り。ともにコンプレッサーさえあればビード上げに成功した。相性次第でX1はフロアポンプでもビード上げOK。
- GRAVELKING X1 40c
- フロント:手袋で装着可、コンプレッサーでビード上げ可(バルブコアあり)
- リア:手袋で装着可、フロアポンプでビード上げ可
- GRAVELKING SK 40c
- フロント:手袋で装着可(固い)、コンプレッサーでビード上げ可(バルブコアあり)
- リア:手袋で装着可(固い)、コンプレッサーでビード上げ可(バルブコアあり)
これまで使ってきたグラベルキングと同じように素手でリムに嵌まる範囲ではあるものの、ゆるゆるという感じはしない。かといってレバーが無ければどうにもならないというビード径でもない実にいい塩梅になっている。
このあたりはアジリストTLRで培った知見ゆえだろうか。
アジリストTLRは、手で簡単に嵌まってフロアポンプでビード上げが楽々済むという新ETRTO規格の大切さを教えてくれたタイヤだった。
実測タイヤ幅は新モデル40cが旧モデルの43cとほぼ同じ幅
グラベルキングX1 40cを取り付けた際のタイヤ幅だが、内幅25mmのフックレスリムであるENVE G25に装着すると、2気圧で実測42mmのタイヤ幅があった。
比較のため、自宅の予備ホイール(GIANT完成車付属・内幅25mmフックドリム)に取り付けた旧グラベルキングSKを計測するとこちらは実測で42.5mmだ。
旧モデルの43cは新モデルの40cに相当すると考えられる。旧モデルが発売された当時は、今よりリム幅が細かったので、時代の流れとともに表記サイズを改めたのだろう。旧モデルのほうが表記に近いのは若干謎。
ライドインプレッション
テストライドは自分のホームコースである西湘エリア某所と、相模川の河川敷グラベル。空気圧はフロントを2.00気圧、リアを2.10気圧にセットした。
砂利道の平坦グラベル、シングルトラックの土路面、下りのダブルトラック農道グラベルに加え、適度にシングルトラックのクライムを織り交ぜられており、一通りの挙動を試すことができた。比較対象は同じく40cのグラベルキングSK。
舗装路の走り出しがSK比で明らかに軽いことがわかる。観測こそできないものの、SKは正方形のノブが縦方向に変形してしまうのに対し、X1は中央部分のノブが詰まっていて縦長。縦方向に動きづらいX1のパターンが、ロスを少なくしていそう。センターが詰まっている分、舗装路では転がり抵抗も低く感じた。追い風巡航で40km/hオーバーでも、常に加速させ続けなければいけない感覚はなくよく転がってくれている。
(新旧)グラベルキングSK、SSで共通していた特徴として、ノブパターンが進行方向に対して垂直の部分と並行の部分を主として設計されており、その割合がサイドとセンターで切り替わるようになっていた。オフロードでは倒しこんだ時にグリップを確保できる設計なのだが、舗装路では切り替わりの瞬間に挙動が変わるため、なれるまで違和感が出てしまっていた。
X1のパターンは、センターとサイドでノブの形こそ変われど、この境界で前作2つほど落差がないため、舗装路でのコーナー時にもサイドノブ接触時に突然挙動が変わることはない。総じて舗装路での感触がとてもよくなっているグラベルタイヤだと感じた。
肝心のオフロードでは、登りトラクションが特筆すべきポイント。SKでは丁寧に踏まないと空転する柔らかい路面で急坂を登っても、パターンが路面をガッシリ捉えて楽々登ることができた。
ここまでしっかりグリップするのであれば、SKは不要なのではと思わせる。
適正空気圧
空気圧は、同サイズのSKよりも0.1気圧ほど落としたところがスイートスポット。同じくらいだとトレイルの根や段差にはじかれる。グラベル下り(最高速度45k/hほど)ではグリップが不安になることはない。
土やグラベルでは感触が良かったが、海岸沿いの砂路面では空転や曲がりづらさが強く、タイヤのしなやかさに頼るような乗り方はそこまで感触が良くない。
SKは、SRAMの空気圧ツールで設定した空気圧より若干下げて乗るのがちょうどよかったので、X1ではそれより更に低めの空気圧(SRAM推奨-10%ほど) で乗っていることになる。
リニューアルに伴い、よりしなやかなケーシングを採用しているとのことだったが、シクロクロスのチューブラータイヤで乗り込んでいる時期と重なってしまったせいか、あまり柔らかくは感じなかった。
この点に関しては、新しく追加された軽量ケーシングモデルの「R」モデルに乗って比較してみたいところ。価格も無印モデルより上がっており、軽量・しなやかなタイヤになっていることを期待したい。
重量と商品性(2024.3.5修正)
今回計測したX1のカタログ重量は、実はこれまでラインナップしていた旧グラベルキングSK 43cのカタログ値とほぼ変わりない。
実測の章で見た通り、モデルチェンジに伴ってタイヤ幅表記が変わっただけで、旧43cと現行40cで実測タイヤ幅はほぼ変わりないことから、重量も変わらないというのは自然の成り行き。
今回インプレッションしたモデルはスタンダードモデルだが、リニューアルしたグラベルキングシリーズには軽量ケーシングモデル (R) が存在している。
Rもでるはタイヤそのものの重量に加え、しなやかさも向上しているということなので、ブラックサイドが好みなどといった理由がなければ、Rモデルを選択したほうが登坂・グリップ共にいい影響が得られそうだ。幾人かのYoutube動画を見ると、サイドはちょっと薄めのようだがしなやかさには代えがたい。
X1まとめ:舗装路の走行性能とオフロードのトラクション性能を両立
実は、グラベルロードでのグリップというものは、トレッドパターンとあまり関係なく、グリップはタイヤの太さ・しなやかさと相関することが示唆されている。
硬めのタイヤと感じたにも関わらず高速のグラベルダウンヒルで安心感があった理由はおそらくタイヤ幅に起因するもの。
一方で、リアルワールドの路面は細かい砂利のグラベルだけではない。湿った土を走ることもあれば、砂っぽい土地もあるし、日本における現実では大半を舗装路で走ることになる。アプローチではガッツリ登坂ということも多い。
延々とグラベルを走る局面ではより良いタイヤがありそうだが、日々のライドで様々な路面を走る際に、ほとんどの局面で安心して走れるオールラウンダーとして有用な「迷ったらこれ」という性格のタイヤ。
舗装路・イージーなトレイル・河川敷・ダブルトラックグラベルと、多様な路面で頼れるパターンは、マルチパーパスなオールロードやグラベルロードにぴったり。よりスピーディーに走りたい人はRモデルも用意されている。