GIANT POWER PRO(R7100)インプレッション Saris H3とのパワー計測値比較
第10世代のTCR ADVANCED PRO購入の大きな決め手のうちの1つだった付属パワーメーター。
もちろん所持しているバイクのすべてにパワーメーターを装着しているが、実は両側パワーメーターを使うのは、最初に買って今は手放しているPioneerペダリングモニター以来だ。
久しぶりに試す左右バランスなどの機能を改めて確認しつつ、自分にとってのパワートレーニング基準であるSaris H3とのパワー計測値を比較していく。
GIANT POWER PRO(FC-R7100)
GIANT製のパワーメーター、POWER PROはシマノ製クランクセットに付属するクランク接着タイプのパワーメーター。
クランク一体型デュアルタイプのパワーメーター「POWER PRO」は、ペダリング出力を測定して正確なデータを送信することで、ライダーのパフォーマンスを分析し向上をサポート。提供する情報は、パワー(W)、ペダルバランス、フォースアングル、ケイデンスなどで、GIANT NEOS TRACKを代表するANT+ヘッドユニットを通じてデータを表示。
ペダリングバランスやフォースアングルにも対応しており、なかなか高機能だ。
取り付けされるクランクは様々だが、説明書PDFを参照する限り、現行販売されているのは2020年モデルからの継続モデルのようだ。保証期間は2年となっている。
余談だが、SRAMモデルにはGIANT製のチェーンリングパワーメーターが対応しており、こちらはPOWER HALOという商品名になっている。両者とも、単体販売は行っておらず完成車付属品のみ流通している。
項目 | 仕様 |
---|---|
ワイヤレス伝送 | 2.4GHz, ANT+™/Bluetooth® Smart (BLE 4.0) |
精度 | 測定パワー出力値の±2% |
重量 | 左側:約16g/右側:約16g |
パワー出力測定範囲 | 0-3000 Watts |
ケイデンス範囲 | 20-180 RPM |
耐水性レベル | IPX7 |
動作環境温度範囲 | -10℃ ~ 50℃ / 14°F ~ 122°F |
出力測定範囲は上限3000Wと常人なら問題ないレベル、測定精度は±2%とややブレが大きい。(Saris H3が±2%、9200Pは±1.5%、SIGEYI AXO, 4iiii, Assiomaは±1%)
その他は常識的なクランク型PMとして期待されている値だろう。充電ケーブルは、よくあるマグネット接続の接点が2つあるタイプだが、両側を同時に充電するための二股のケーブルが付属する。
とはいえ、公称の測定精度はアテにならないし、パワーメーターを複数台持つ場合に重要なものは、「正しさ」ではなく「一貫性」だ。
Saris H3と同時にZwiftで走行し、実際の測定パワーを見ていく。
POWER PROとSaris H3のパワー測定値比較
計測方法は、先日の記事と同様に計測前にウォームアップを行ってから、パワーメーターとトレーナー両側をキャリブレーションして測定をスタートする。
- POWER PROとSaris H3(通常モード)
- POWER PROとSaris H3(ERGモード)
なお、コースやメニューが異なるためパワーカーブや平均パワーに違いが出ている点はご愛敬。結果は以下の通りだ。
スパイクの影響を受けやすい短時間平均の部分を除けば、ほぼ全ての時間平均で5%ほど、POWER PROが高い値を出した。
測定精度は両者とも±2%を謳っている割には、かなり安定した結果となった。
今回利用した比較プロトコルでは、特定のパワーバンドでの差が計測できないため、この点は未知。また、Saris H3でERGモード時にパワーが上振れするという事象は、今回発生しなかった。(H3ファームウェアバージョンは31.065)
FTP110%程度が上限のメニューだったこともあるかもしれないが、ERGモードの問題再現はまた別の機会に回す。
POWER PROはSaris H3比で常に安定して計測値を出しているという結果となり、POWER PROの測定安定性(造語)は非常に良好と言えそうだ。スケーリングで-5%の補正ができれば、FTP値を基にして、ライド負荷の計測を高精度で行えることになるが…
グラフ比較
ZwiftPowerでの比較グラフは、手動でタイミングを合わせているためあくまで参考情報ではあるものの、興味深い傾向もうかがえる。
上のグラフはフリーライドでの比較グラフだが、**全体を通して、紫色のSaris H3のパワー変動に比べて、POWER PROのパワー値は細かく変動している。**また、スプリント後に脚を緩めた最後のピーク後、Saris H3が0Wの区間でもPOWER PROは僅かながらパワー値を出力していることがわかる。
これは(事実上)リアハブでパワーを測定しているダイレクトマウント型トレーナーとクランク型PMの測定場所の違いに起因しているのではないかという仮説が立つ。ダイレクト型マウントトレーナーはチェーンテンションが無ければトルクを検知できない。もしくは、データ取得の頻度がPOWER PROの方が高いのだろうか。
そして、ERGモードのグラフはもっと興味深い。
Saris H3は以前のレビュー時に、「ERGモードの調整力が高く、これまで使っていたトレーナでのメニューがマイクロインターバルに思えるほど負荷が安定する」という表現をしていた。
しかし、今回クランク型PMであるPOWER PROとの比較グラフを見ると、作為的にデータを丸めているのではと思いたくなるほど、パワーのスパイクが小さい。
疑ってみると、スマートトレーナーのケイデンス測定は反応が遅かったり数字が怪しかったりするので、細かくトルクを調整したところで狙ったパワーを維持できるのは不自然だ。ターゲットパワーに収まるよう、データを加工しているのではと思いたくなる。
一方で、15秒や30秒といった、ERGモードが苦手とする短時間インターバルの平均値でも、POWER PROとSaris H3の間で測定結果は大幅にズレてはいない。データを作っていると仮定しても、トータルではうまく収めているともいえる。
ペダル型PMなどを使って、スマートトレーナーと合わせて3カ所で測定すればもっと何かわかるかもしれないが、現状ではあくまで疑いだ。
管理アプリ
ファームウェアアップデートや、キャリブレーションで必ず利用するモバイルアプリ。POWER PROのアプリは端的に言ってパワーメーター上過去最低クラスにひどい。まずファームウェアアップデートになぜか位置情報を常時許可しないとエラーを吐くのだが、これは序の口だ。
この画面は、キャリブレーションメニューを開いた時の画面だが、どのボタンを押せばキャリブレーションが始まるのか全く分からなかった。
実際には「オフセット値」をタップするとキャリブレーションが始まる。英語版では”Offset”と記載されていたので動詞と捉えればギリギリ理解できなくもないが、日本語だと完全に意味不明である。
オフセット結果が16進数で表記されるのも謎。これが16進数だと咄嗟に理解できる人はそんなにいない気がするし、そもそも数字でなく単なる実行IDかもしれない。
ちなみに、H3との比較テストで、自分の求めるパワー値の5%増しを出力するとわかったのだが、スケーリング機能はメニューにない。Saris H3にもスケーリング機能はないので、精度合わせは完全にお手上げである。複数台を真面目に運用する際に大変困るので、スケーリング機能だけは早急に追加してほしい。
まとめ
- 様々なシチュエーションで安定した測定値を出力する
- フル機能の両側PMが完成車付属というお得感
- 管理アプリの出来が悪い
- スケーリング機能がなく、複数台運用に困る